「不動産」を分析することの難しさ
私の本業は今は不動産と金融の研究なのだが、ここで「不動産」を分析する難しさについて語りたい。
今回は、「不動産アナリティクス」(石島、2019)の論文を基に不動産金融をファイナンス理論を用いた際に発生する問題点から不動産分析の難しさについて述べる。
不動産ファイナンスとファイナンス理論の相違点
私は日本及び世界の不動産経済、不動産ファイナンスについて研究しているのであるが、不動産経済の分析については、これまでの経済学者が紡いできた理論を応用して分析フレームワークを構築するのが一般的だ。
不動産ファイナンス分析の基になるファイナンス理論の前提には以下のようなものがある。
流動性・・・高い流動性を伴って市場で自由に資産売買ができる。
情報・・・どの市場参加者も対称な情報を持ち、市場は効率的である。
資産価格・・・離散/連続時点で資産は取引され、取引価格は観測可能である。
もうお気づきだろうが、上のファイナンス理論の前提に不動産の商品性は全く合致しない。
不動産売買には時間がかかるため流動性は低く、売り手が極端に情報を持っている不動産市場では情報の非対称性は全くない。
つまり、平均分散モデルにおけるポートフォリオ選択やその結論として用いられるアセットプライシングモデルなどのファイナンス理論が全く不動産市場では通じないことになる。
それでも不動産分析の壁を越えるには?
ファイナンス理論が通じなければ、不動産分析では理論によって価格が導かれないため、今まで通り、「勘」に頼った業界特有の不動産取引をこれからも行う必要があるのだろうか。
その壁を越えるには以下の方法が考えられる。
・不動産をその他の金融資産と同列で扱えるように理論を拡張すること
・価格、取引高、需給、立地、築年、駅距離などの不動産データを大規模・非構造化データにより、深層学習等のAIの効果的活用を行うことである。
この2つの解決はそう簡単なことではない。
しかし、不動産特有の流動性・情報・情報の非対称性を超えなければ、今後の不動産研究の発展はない。私も研究者人生でこの難題に挑んでいきたいと思う。
以上である。学術的な言葉も多用しているため難しく感じたかもしれない。
今後も私の本業である不動産研究については折々触れていきたい。
参考文献
・「不動産アナリティクス」(石島博,2019)ジャレフィ・ジャーナル