外国人投資家は不動産を高値で掴まされてる?(実証分析から分かる不動産価格分析)
今回は外国人投資家の不動産取引について、
「Geography and Realty Prices: Evidence from International Transaction-Level Date」
Miyakawa, Shimizu, Uesugi (2019)
での研究結果を参考にさせていただき考察していきたい。
(参照元)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/19e011.pdf
研究内容
この論文の内容については、外資が日本で不動産投資を活発化させ、日本企業がさらなるリターンを追い求める現在の時流の中で、非常に重要なことを示唆していると思う。
- 外国人投資家は国内投資家より不動産を高値で掴まされている。
- 不動産価格が高くなる国ほど、買い手による不動産価格差は小さくなる。
- 外国人投資家は国内投資家より不動産から得られるリターンが少ない傾向にある。
- 外国人投資家による不動産取得は国内不動産価格を高騰させる。
使用するデータ
•Real Capital Analytics Inc
世界的な不動産投資データ会社。アメリカ、香港、日本など8カ国、計71,000以上の取引データを有する。
こちらはそのデータを集計し、不動産取引地点を表示したものである。
(参考)東京不動産取引地点分布
⭐︎が外国投資家、●が国内投資家
※論文より抜粋
データ情報は以下の通りである。
- ドル表記の不動産価格(LN_PriceUSD)
- 平方メートル表示の不動産面積(LN_Sqft)
- acre対数表示の不動産面積(LN_land_area_nb)
- 築年(age)
- 住居、産業用、ホテル、オフィス、商業、高齢者住宅のアセットタイプ(Property type)
これらのデータを
- 対象不動産の存在する国(Property location country)
- 不動産の買い手の国(Buyer country)
- 不動産の売り手の国(Seller country)
に分類する。分析の中では、買い手と売り手の特性に関して、主体がREITか一般法人かなどさらに細分化をしている。
さらに、買い手がその国で不動産を購入した経験についても考慮するため、次の変数を取り入れている。(INVACC_unadj)
以上を踏まえ、完成した方程式が以下の通りである。
𝐿𝑁_𝑃𝑟𝑖𝑐𝑒𝑈𝑆𝐷 = 𝛼 + 𝛽 𝐹𝑜𝑟𝑒𝑖𝑔𝑛𝐵𝑢𝑦𝑒𝑟 + 𝛽 𝐼𝑁𝑉ACC 𝑖,𝑝,𝑏,𝑠,𝑡 1 𝑖,𝑝,𝑏 2 𝑝,𝑏,𝑡+𝛽𝐹𝑜𝑟𝑒𝑖𝑔𝑛𝐵𝑢𝑦𝑒𝑟3 𝑖,𝑝,𝑏
+𝜂1 +𝜂2 +𝜂3 +𝜂4 +𝜀 (1) 𝑝 𝑏 𝑠 𝑡 𝑖,𝑡×𝐼𝑁𝑉ACC 𝑝,𝑏,𝑡+𝑿 𝜸 𝑖𝑡
検証結果
本論文では上記の方程式を用いて7つのデータ分析を行なっている。
それを一つ一つ説明するのは非常に難解なので省略させていただく。
(参考)リターン推計の集計
※論文より抜粋
データ分析の中で、外国人投資家の投資行動の評価をすべく、投資家が不動産を購入した後で、不動産価格がどう変化するのか検証された。
すると、以下のようなことが示唆された。
・外国人投資家が不動産を購入することと、その国の不動産価格の値上がりに関しては相関関係にあること。
・外国人投資家もその国での投資活動期間が長ければ長くなるほど、得れるリターンが大きくなること。
考察
本研究から明らかになったことは、外国人投資家が自国以外で不動産投資を行うと、その国でスピルオーバー効果があるということである。
スピルオーバー効果・・・費用を負担した者に提供される便宜が、負担しない者まで及ぶこと。
本論文で得られた結果については、始めに示した通りであるが、さらに発展させるには以下のことが必要になってくる。
- 外国人投資家によるスピルオーバー効果の具体的な検証
- 投資家のより詳細な特性
- 不動産投資先が数カ国にある場合の投資家の選択
論文では、数式なども展開し小難しい内容になったが、非常に需要な示唆を示している。
現状の日本の不動産市場を見てみると、外国人投資家が日本の不動産を買う事例が増えつつある。「外資の不動産買い叩きだ!」と揶揄する人もいるが、より高値で買ってくれる外資は日本の不動産価格上昇に貢献する。
ずっと右肩上がりを続ける日本の不動産価格に対し、バブルだと警鐘を鳴らす見識者もいるが、外資プレイヤーの参入が多くなることでその不動産ファンダメンタルズの正当性を示すことができるであろう。
これからの日本の不動産発展には外資の参入は欠かせず、その外資が投資しやすい環境を整備することも需要となってくるであろう。